キャンプ沼にどっぷりと浸かっている皆さんなら、一度は経験があるはずだ。公式サイトの製品ページから、愛してやまないあの道具が、音もなく消え去っている瞬間を。
スノーピークというブランドは、常に進化を止めない。それは賞賛すべき姿勢だが、一方で「おいおい、正気か?」と疑いたくなるような、非情な決断を下すことも少なくない。僕たちが欲しかったのは、洗練されすぎた最新ギミックではなく、あの無骨で、どこか不器用なほどに頑丈だったものだ。
今回は、惜しまれつつもカタログから姿を消した、今こそ再評価されるべき「スノーピーク 廃番 名品」を7つ厳選して紹介する。

スケスケのメッシュが「エロい」とすら思わせるカヤードや、ソロキャンパーの聖域を構築するIGTショート、そして一枚3万円の価値が付く伝説のブリッジ……。なぜ彼らは廃番を余儀なくされたのか? その背景を紐解きながら、今からでも血眼になって探す価値があるのか。25歳スノーピーカーの視点で、たっぷりの愛と、ほんの少々の毒を込めて綴ってみたい。
それでは、エセ・スノーピークミュージアムの開園です。
IGT 2way脚
IGTの沼にハマると、避けて通れないのが「脚」の増殖問題だ。300、400、660、830……スタイルを変えるたびに脚を買い直す日々。そんな「脚地獄」への救世主として現れたのが、この「2way脚」だ。

1本で2役、その圧倒的な合理性
特にショートタイプ(CK-190)は、一本のパイプの中に伸縮機構を封じ込め、ロースタイル(300mm)とミドルスタイル(400mm)を瞬時に切り替えることができた。
- 積載の圧縮: 予備の脚を持ち運ぶ必要がない。
- コストの削減: 4本セットを2つ買う必要がない。
- 現場での適応: チェアやレイアウトに合わせて、その場で高さを変えられる。
これほどまでにユーザーメリットが明確な製品が、なぜ消えたのか。

永久保証の「宿命」
理由は、スノーピークが掲げる「永久保証」という看板の重さにあると僕は睨んでいる。
IGTは重いダッチオーブンや水ジャグを載せるタフな台だ。伸縮機構という「可動部」は、泥や砂が噛み込みやすく、長年の使用でどうしてもガタつきが出るリスクを孕む。 「壊れないこと」を至上命題とするスノーピークにとって、この複雑なギミックは、諸刃の剣だったのかもしれない。
しかし、キャンプ場で水平を出すために、ミリ単位で調整したいという我々の渇望は、今も消えることはない。
カヤード
スノーピークの幕体の中で、最も「潔い」と言い切れるのがこの「カヤード」だ。

視線を誘う、究極のシースルー
全面メッシュ。その一言に尽きる。 「蚊帳(カヤ)」をフィールドに展開するというコンセプトだが、実際に設営してみると、その姿は驚くほど色っぽい。
中が完全に見えるわけではないが、光の加減でキャンパーの影が揺らめき、内側からは外の景色が100%の鮮度で飛び込んでくる。この**「透けているのに、守られている」**という絶妙な境界線。エロい。


猛暑という時代の「主役」へ
「冬に使えない」「パネルを買わないと雨に弱い」そんな理由でカタログから消えたカヤードだが、皮肉にも近年の異常な猛暑が、その価値を再燃させている。
エアコンのないフィールドで、風だけを味方につけて涼を得る。汎用性を捨て、夏の一点に全振りしたこの設計思想は、今こそ評価されるべきだ。パネルを付ければ春も秋もこなせる。

IGTフレームショート(CK-170)
キャンプ界のシステムキッチン、IGT(アイアングリルテーブル)。その膨大なバリエーションの中で、かつて「異端児」扱いされながら、今や伝説と化したのがこの「IGTフレームショート」だ。
2ユニットの衝撃
通常、IGTといえば3ユニット、あるいは4ユニットという広大な作業スペースが売りだ。しかし、このショートモデルが提示したのは、わずか「2ユニット」という制約。 「そんなに狭くて何ができるんだ?」当時のファミリーキャンプ全盛期には、そんな冷ややかな視線もあったかもしれない。だが、現代のソロキャンプ・ブームがその評価を180度変えた。
| 項目 | 詳細・スペック | 備考 |
| 型番 | CK-170 | 惜しまれつつ廃番 |
| サイズ | 50.8(D) × 59.7(W) × 40.6(H) cm | 脚の長さにより変動 |
| ユニット数 | 2ユニット | 1ユニット×2 または 0.5×4 |
| 市場価格 | 約43,000円前後(中古) | 定価を大きく上回るプレミア化 |

廃番の裏に隠された「時代とのズレ」
なぜ廃番になったのか。それは、当時の市場がまだ「大は小を兼ねる」という思想に支配されていたからだろう。2ユニットでは、フラットバーナーを一つ置けば、残りはわずか1ユニット。まな板を置けば、もう逃げ場はない。 しかし、この「手の届く範囲にすべてがある」という没入感こそが、現代のソロキャンパーが求めてやまない「書斎感」そのものだったのだ。
実は2024年、この思想は「セパレートIGT」として形を変え、待望の再登場を果たした。僕も迷わず手に入れたが、やはりこのサイズ感こそが、自分だけの空間を構築するための「最小単位」だと確信する。かつてのIDTショートが中古市場で4万円を超える高値で取引されていた事実は、スノーピークが少しだけ「未来を先取りしすぎていた」証拠なのだ。

ジカロテーブル1ユニットブリッジ(ST-051)
スノーピークのアイデンティティの真ん中には、常に「焚き火」がある。その焚き火を囲む円卓として君臨するのが「ジカロテーブル」だ。しかし、この巨大なステンレスの要塞を真の意味で「万能」へと昇華させていたのは、今はなき一枚のプレート、「1ユニットブリッジ(ST-051)」だったと言っても過言ではない。

画像引用:https://ec.snowpeak.co.jp/
システム連結:精密な設計
このブリッジは、一見するとただのステンレス製の板だ。しかし、その実態はジカロテーブルの開口部にIGT(アイアングリルテーブル)の規格を流し込むための、極めて計算された「変換プラグ」なのである。
| 項目 | データ・詳細 | 備考 |
| 型番 | ST-051 | 現在は絶版 |
| 材質 | ステンレス | 耐熱・耐食性に優れたタフ仕様 |
| サイズ | 435 × 265 × 23(h) mm | IGT 1ユニットサイズ |
| 重量 | 約500g | 持ち運びを苦にしない軽量設計 |
| 対応熱源 | プレートバーナー、雪峰苑、焼武者など | IGT1ユニット製品全般 |

なぜ「剛炎」だけでは不十分だったのか?
通常、ジカロテーブルの中央には「焚き火台L」か、あるいは中華料理店並みの火力を誇る「ギガパワーLIストーブ剛炎」が鎮座する。

だが、想像してみてほしい。静かな夜、チタンマグに入れたコーヒーを少し温め直したいだけの時や、地元のスーパーで買った上質な肉を数枚、じっくりと炙りたい時。そんな時、あの爆音を響かせる剛炎はあまりに「過剰」なのだ。(高いし)
この1ユニットブリッジがあれば、手持ちの「ギガパワープレートバーナーLI」や「フラットバーナー」をジカロのど真ん中にインストールできる。これにより、中央で豪快に薪を燃やしながら、すぐ傍らのブリッジ部分で酒の肴を育てるという、機能的な「囲炉裏スタイル」が完成する。この完結性こそが、多くのスノーピーカーを虜にした理由だ。
廃番がもたらした「3万円の板」という悲喜劇
これほど実戦的なパーツがなぜ廃番となったのか。一説には、ジカロテーブル単体での完結性を高めすぎると、他のテーブル(IGTスリムやエントリーIGTなど)の需要を食ってしまうという「ブランド内での役割重複」を避けたのではないかとも囁かれている。
しかし、その結果として中古市場では現在、定価の数倍にあたる30,000円前後で取引されるという異常事態を招いている。わずか500gのステンレスパーツに、最新の焚き火台が買えるほどの金額を投じる人々。彼らが求めているのは単なる板ではなく、ジカロテーブルの中に、自分なりの熱源を自由に配置できるという「体験」なのだ。
私の目から見ても、この製品はスノーピークレイアウトシステムにおける「必須製品」である。もしあなたがどこかのリサイクルショップでこれを見つけたなら、それは宝くじに当たったようなものだ。
焚き火ツールポール
スノーピークの傑作、パイルドライバーの血を引く「焚き火ツールポール」。自重で地面に突き刺さるあの快感を、焚き火ツールのために捧げた、極めて贅沢な逸品だ。

パイルドライバーの影に隠れた「名脇役」
なぜ廃番になったのか? おそらく、多くの人が「パイルドライバーで代用できる」と考えてしまったからだろう。確かにその通りだ。しかし、このポールの本質はそこにはない。
- 黄金の高さ: ローチェアに座った際、火ばさみが最も手に取りやすい絶妙な長さ。
- フックの角度: 重いツールを掛けても安定し、かつ抜き差ししやすい専用設計。

「火を操る者」の聖域を作る
焚き火の周りに、火ばさみやショベルが散乱している様は、美しくない。
このポールが一本あるだけで、焚き火周りは整然とした「工房」のような佇まいを見せる。 私も、今だに中古市場でこれを探し続けている一人だ。

画像引用:Instagramよりスクリーンショット
ウイングタープ(TP-100)
テントやタープといったファブリック製品は、キャンプサイトの「顔」だ。ブランドの美意識が最も露骨に表れるこの領域において、かつてスノーピークが放った至高の一張りが、この「ウイングタープ(TP-100)」である。現代のハイスペックな幕体にはない、危ういほどの美しさがそこにはあった。

「シールド」以前の、柔らかな光の恩恵
現代のスノーピーク製タープの多くには、日差しを完璧にシャットアウトする「シールド加工(遮光ピグメントPU)」が施されている。夏場の快適性を考えれば正解なのだが、その進化の過程で、僕たちはある「豊かさ」を失った。
ウイングタープは、その加工が普及する前のモデルだ。布地を通して太陽の光が淡く透ける、あの独特の透明感。朝、タープの下には、頭上が真っ暗な影ではなく、柔らかな光を照らす……。真夏には確かに「暑い」というデメリットになるが、一方で自然との境界線を曖昧にする、極めて贅沢な「不便益」でもあったのだ。

画像引用:https://www.snowpeak.co.jp/contents/productnotice2024/repair/
寄せ書きが刻んだ「野遊びの叙事詩」
このタープには、単なるキャンプギアを超えた「文化」が宿っていた。当時のユーザーの間では、この美しいベージュのキャンバスを、旅先やイベント(Snow Peak Way)で出会った仲間たちとの「メッセージボード」にする文化が存在したのだ。
誰かが書いた励ましの言葉、焚き火を囲んだ夜のサイン。それは、現代の「いかに汚さず使い、リセールバリューを維持するか」という冷めたギア運用とは、真逆の思想だ。道具を使い倒し、出会いの歴史を物理的に刻み込む。それはスノーピークが提唱する「野遊び」の本質であり、コミュニティの絆を象徴する体験そのものだった。
なぜ、この美しさは「廃番」となったのか
理由は残酷なまでにシンプルだ。ウイング型は、その鋭いフォルムと引き換えに、有効面積がレクタ型やヘキサ型に比べて圧倒的に狭い。ファミリーキャンプが大型化し、快適性が正義となった市場において、この「スタイル一点突破」の幕体は、合理性の波に飲み込まれてしまったのである。
しかし、ソロやデュオで、風を華麗に受け流す流麗なフォルムを愛する「感性重視」のキャンパーにとって、ウイングタープは今なお至高の存在だ。スペック表の数字(耐水圧や遮光率)では決して語れない、あの空を切り裂く稜線。それを見上げながら飲むコーヒーの一杯が、どれほど僕たちの心を豊かにしてくれたか。「スノーピーク 廃番 名品」が放つ輝きは、時が経つほどに増すばかりである。
実は、ウイングタープはメッシュ裏のスペック不良のお詫びの品で再登場した。
詳しくは下記記事より
ギガパワープレートバーナーLI

最後を飾るのは、IGTの火力を支えた重鎮、「ギガパワープレートバーナーLI」だ。
「倒立銀缶」
このバーナーの最大の特徴は、ガス缶を逆さまにセットする「液出し(LI)」システム。
「ガスは冬に弱い」という常識を、物理的な機構で力技でねじ伏せる。そのメカニカルな外見、ステンレスの重厚感、そして逆さに吊るされた銀缶……。
| 項目 | 特徴 |
| LIシステム | ガスを液体のまま送り込み、強制気化。寒冷地に強い。 |
| デザイン | IGTに完璧にフラットに収まるステンレスボディ。 |
| 後継機 | フラットバーナー(GS-450)※液出しは非搭載。 |

利便性の影に消えた「プロスペック」
現在は、より安価で扱いやすい「フラットバーナー」が市場を席巻している。確かに名作だ。しかし、プレートバーナーLIが放っていた「プロ仕様の道具」というオーラ、そして複雑な点火手順をこなした者だけが味わえるあの安定した強火力は、一度知ってしまうと忘れられない中毒性がある。
かっこいい。それだけで、道具を持つ理由は十分なのだ。

まとめ
今回紹介した「スノーピーク 廃番 名品」の数々、いかがだっただろうか。
こうして改めて振り返ってみると、惜しまれつつ消えていった製品たちに共通しているのは、作り手の「過剰なまでの熱量」だ。万人受けする使い勝手や、製造コストといった現代の合理的なモノづくりの論理から、あえてはみ出してしまったような「不器用な愛しさ」が、彼らには宿っている。
効率を優先するなら、カヤードの全面メッシュという潔さも、2way脚の複雑なギミックも、必要なかったのかもしれない。けれど、その「尖り」こそが、僕たちの退屈な日常を鮮やかな非日常へと変えてくれる最高のスパイスだった。
カタログからは消えても、名品たちがフィールドに残した轍は決して消えない。もしあなたが、古びたアウトドアショップの片隅や、中古市場の荒波の中で彼らと出会ったなら。その時は、迷わず手を伸ばしてほしい。そこには最新ギアでは決して手に入らない、血の通った「野遊びの魂」が確かに息づいているから。





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